“あの時のミス”を責めない世界──過去より“次の一打”に集中する生き方

「なんであの時あんなことを言ってしまったんだろう」「あの選択さえしていなければ」──人はしばしば過去の“ミス”にとらわれる。時間は前に進んでいるのに、心は過去に置き去りにされてしまう。それは日常でも、ビジネスでも、教育現場でも、どこでも起きている現象だ。しかしゴルフというスポーツは、それを一打ごとに乗り越える訓練の連続であり、“今”に立ち返るための哲学でもある。
ゴルフには、リプレイも巻き戻しも存在しない。あるのは“次の一打”だけだ。過去のショットがどれだけ酷くても、次の一打をどう打つかで、そのホールは書き換えられていく。ミスを引きずっても、スコアは回復しない。怒っても悔やんでも、ボールは戻ってこない。むしろ“気にすること”が、さらなるミスを呼び寄せる。ゴルファーに求められるのは、感情の切り替えではなく、波動の再調律だ。“振動が乱れていると、スイングが乱れる”──これはプロの間では半ば常識となっている。だからこそ一流のゴルファーは、ショットを失敗しても微笑む。あれは演技ではなく、意識の再チューニングであり、自分に「大丈夫だ」と伝えるためのセルフメッセージである。“反省”ではなく“脱力”が重要なのだ。
ゴルフには“他人のスコアを責める文化”がない。それは“誰もがミスをする”という前提に立っているからだ。風もある、傾斜もある、心の状態も日によって違う。“条件”は常に不安定なのだ。そんな中で「完璧であれ」と求めるのは、あまりに非現実的であり、むしろ傲慢ですらある。だからこそ、ゴルフのスピリットは“寛容”だ。“いま、ここ”にいること。“次”に全集中すること。終わった一打は“学び”として受け取って、手放すこと。その繰り返しが、18ホールを進むたびに心を鍛え、同時に“他人のミスにも寛容でいられる人間”へと育ててくれる。
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