“自分を責める癖”を手放せた─1ホールごとのリセット思考

私たちは、失敗やミスをした時、他人よりもまず“自分自身”を責める。あの時こうすればよかった、なぜもっと冷静になれなかったのか、次こそはちゃんとしないと──そんな内なる声が、心を締めつけていく。特に真面目で繊細な人ほど、この“内省”が“自己攻撃”に変わる速度は速く、深い。だが、そうやって繰り返し心を痛めてきた人にこそ、ゴルフというスポーツが持つ“静かな思考習慣”は大きな転機になる。なぜなら、ゴルフには“1ホールごとのリセット”という仕組みがあるからだ。
1ホールでOBを出しても、バンカーから出られなくても、それで試合は終わらない。たとえスコアカードに“8”と大きな数字が並んでも、次のティーグラウンドでは、また「1」から始まるのがゴルフのルールだ。この“構造的な許し”の中で、ゴルファーは否応なく切り替える術を学んでいく。悔やんでも、怒っても、涙ぐんでも、前には進めない。“気にしても、何も変わらない”という現実を、理屈ではなく“体感”として理解できるのが、ゴルフという競技の特異性である。
人は本能的に、失敗を繰り返さないために自分を責める。だが、その反応は時として、次の行動を鈍らせる毒にもなる。ゴルフでは、前のミスを引きずったまま次のショットに入ると、身体は硬直し、スイングは縮こまり、さらにミスが重なる。だから一流のプレイヤーほど、“自分を責めること”より“状態を整えること”に意識を向けている。1ホールでどんなことがあっても、深呼吸し、肩を落とし、空を見て、次の風に集中する。そこには“過去を否定しないで手放す”という、柔らかな強さがある。
1ホールごとのリセットとは、単なる“忘却”ではない。むしろ、“受け止めて、静かに置いていく”作業だ。これはビジネスでも人間関係でも応用できるメンタルスキルであり、特に“傷つきやすい性格”の人にとっては、再起を可能にする強力な思考モデルとなる。大切なのは「ミスしないこと」ではなく、「ミスした自分とどう付き合うか」。そこに向き合えた時、人は初めて“自分を育てるような眼差し”で自分を見ることができるようになる。そして、その眼差しが人生を変えていく。
1ホールごとの区切りは、単にゲームを進行させるための構造ではない。むしろ、それは“心をリセットする練習”の繰り返しであり、“未来を恐れずに今を打つ”という精神の土台である。スコアが悪くても、前の組に追いつかれても、同伴者がうまくても──それでも、自分にだけは静かに優しくあること。それができた時、ゴルフはスポーツを超え、自己肯定感を回復させるための“ライフセラピー”となる。ゴルフは、完璧な人間を求めてはいない。ただ、自分のペースで、自分を整えていくことを教えてくれる。その教えに触れた人は、きっとこう思うだろう──「ああ、もう自分を責めなくていいんだ」と。
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