カートにライターとジョイント:合法州のラウンド風景

ゴルフとグリーンの“新しい親和性”

ティーオフ前の“もうひとつのルーティン”

午前10時、カリフォルニア州パームスプリングス。快晴の空の下、2人組のゴルファーがフロントナインを終え、カートの影で休憩をとる。彼らが手に取るのは、ペットボトルでもクラブでもなく──ライターと巻きたてのジョイントだった。「バックナインに向けて集中するには、これがいちばん効くんだよ」軽くひと吸いした後、彼は静かに笑って、ドライバーを握った。このような風景は、いまアメリカ西海岸を中心に珍しくない現実になっている。

合法州で広がる“ジョイントとフェアウェイの共存”

2024年現在、アメリカでは24州とワシントンD.C.が嗜好用大麻を合法化。そのなかで、カリフォルニア、コロラド、オレゴン、ネバダ、アリゾナといった西部のゴルフ強豪州では、ラウンド中の大麻使用が一般的なカルチャーとして浸透しつつある。これらの地域の一部コースでは、大麻製品の持ち込みを容認、CBDエディブルを販売するカートガールの導入、ゴルフ場内に420フレンドリースペース(喫煙所)の設置、といった対応が進んでおり、「大麻とゴルフ」の相性を商業的に活かす試みが急増している。あるカリフォルニア州パブリックコースのマネージャーは語る。「クラブとボールだけじゃなく、“メンタルのための選択肢”を増やした。それがこの時代のニーズなんだ」

プレーヤーの声:“ゾーン”への導線としてのジョイント

大麻をプレーに取り入れる理由は、単なる快楽ではない。ある40代のハンディキャップ5の男性プレーヤーはこう語る。「むしろ、酒よりずっと繊細。雑念が減って、スイングがシンプルになる。コーヒーが“アクセル”だとしたら、大麻は“ブレーキとサスペンション”に近い」多くの愛用者が語るのは、集中状態の静かな深化だ。風の流れや芝の硬さ、グリーンの微妙な傾斜──それらを敏感に感じ取り、“今ここ”に没入する助けになるという。THC含有量5〜10mgのマイクロドーズが主流で、「酔うためでなく“整える”ために吸う」というのが現在のトレンドだ。

PGAとのギャップ:ルールと現実の分離

一方で、PGAツアーでは依然としてTHCは禁止物質であり、陽性反応が出れば出場停止処分が下される。だが実態は異なり、2019年の『Golf.com』の匿名調査では、PGA選手の約20%が過去1年以内に大麻を使用した経験があると回答している。また、2017年に『Golf Digest』へ寄稿された匿名プロのコラムでは、「使ってみると、無駄な緊張が抜け、ショットに対して自信が戻った」との記述もあった。つまり、表には出せないが“使っている選手”がいるのは公然の秘密であり、むしろ“ゴルフにおけるTHCの適切な活用”を議論すべき段階に入っているとも言える。

草の根カルチャー:420系トーナメントと地域密着

今、アメリカでは地域主導の大麻×ゴルフイベントも急増している。オレゴン州ポートランドでは、年に数回「Kush Open」という草の根トーナメントが開催されており、参加者にはCBD入りスナックやTHC低濃度グミなどが振る舞われる。ラウンド中には“大麻試打クラブ”と称してカートに吸引器を搭載する演出もあり、“リラックスした競技”としてのゴルフの姿が再定義されている。大麻ブランドとのコラボによるスポンサーラウンド、420専用ラウンジのあるカントリークラブなど、“嗜好×パフォーマンス”の融合が文化として根付いてきているのだ。

ゴルフにおける“大麻”の再定義:逃避ではなく調律

重要なのは、大麻がもたらすのは“酩酊”ではなく“再調律”だという理解である。過去には葉巻やブランデーが社交の象徴だった時代もある。それと同じように、現代のゴルファーは「静けさのためのツール」としてジョイントを選ぶようになった。スコアアップの近道ではない。だが、スイングの無駄を省き、プレッシャーの中でも呼吸を守る──その精神的バッファとしての機能は、プレーヤーにとって大きな意味を持っている。

あなたの“カートの中身”が、ゴルフ観を映し出す

クラブ、スコアカード、グローブ、そして小さなケースに入ったジョイント。それが揃うことが、もはや違和感ではなく“選択の自由”として捉えられる時代が来ている。あなたにとって、ゴルフは何のための時間か?競争か、瞑想か、癒しか。その問いへの答えが、あなたのカートに静かに積まれているのかもしれない。