“てんかんで苦しむ子”に効く唯一の薬が、なぜ違法なのか? ――法律と人道の間で揺れる日本の家族たちの声 “1日100回の発作”を止めた、たった一滴 「その夜、初めて発作が起きなかった。息子が眠っているのを見て、私も泣いた」そう語るのは、難治性てんかんを患う7歳の息子を持つ母親だ。彼女が試したのは、CBD(カンナビジオール)オイル。海外の医師から紹介され、米国で処方された製品だった。精神作用のない大麻成分であり、FDA(米食品医薬品局)も2018年に医療用として承認している。しかし、その製品は日本では「輸入禁止」。通関でTHC(テトラヒドロカンナビノール)の微量混入が検出されれば、大麻取締法違反として逮捕される可能性がある。 「子どもを助けたい。でも助けたら、私は犯罪者になるかもしれない。」 この“倫理のねじれ”に、どれだけの家族が苦しんできたかは、まだ可視化されていない。 効くとわかっているのに、使えない──制度の矛盾 小児の難治性てんかんの中でも特に治療が困難とされるドラベ症候群、レノックス・ガストー症候群。これらは多くの抗てんかん薬が無効であり、数十回〜百回単位の発作が日常化する。だが、米FDAが承認したCBD製剤「Epidiolex」は、これらの症状に対し有意な発作頻度の減少を示すことが、複数の臨床試験で証明されている。にもかかわらず、日本では: 「Epidiolex」は未承認医薬品であるため、正式処方不可個人輸入には厚労省認可とTHC完全ゼロ証明が必要輸入時に微量のTHCが検出されれば刑事罰対象 つまり、世界が“治療薬”と認めているものが、日本では“違法薬物”となる。 人道の問題としての「制度的空白」 これは単なる行政の遅れではない。**制度によって、治療の選択肢を奪われるという“人道的問題”**である。日本においても、CBDの医療活用を求める家族による署名運動や、議員との政策対話が始まりつつある。だが現時点では、具体的な制度化には至っていない。京都大学大学院の脳神経科学者・今井洋介氏はこう語る。 「CBDはあくまで一つの選択肢です。ただし、選択肢がゼロであること自体が、現代医療の倫理として問題です。子どもにとって“最も穏やかに苦しみを減らせる方法”が法律で封じられているなら、それはもはや医療国家とは呼べません。」 “命を守るか、法を守るか”という問いを家族に投げていいのか? 多くの家族は、自らの行動が違法になるリスクを知ったうえで、それでもCBDを探し、輸入し、時には逮捕されてきた。そこにあるのは、「法か命か」という個人には背負いきれない二択だ。しかし本来、その選択は社会と制度の側が“整備する責任”を負うべき領域である。 制度は、子どもを守る側にあるべきか? 日本では「大麻」という言葉だけで議論が封殺される傾向がある。 だが、その言葉の先にあるのは、“普通の生活を送りたいだけ”の子どもたちだ。 保険適用の対象外でもよい使用制限があってもよい医師管理の下でのみ認可でもよい それでも構わない。ただ、「選択肢そのものがない」現状は、倫理として成立しない。今求められているのは、**科学的に認められた治療法を、制度がどう受け止めるかという“社会の成熟度”**である。