大麻解禁で“農業立国”は蘇るか? タイ農村の逆襲

「米と大麻、どちらも命を支える作物だった」 タイが2022年に大麻を非犯罪化してから2年、かつて“消えゆく農村”といわれた地域が再び脚光を浴びている。転機となったのは、大麻という“グリーン・ゴールド”が地方の農家にとって新たなキャッシュクロップ(換金作物)として機能し始めたことだ。タイの農村部は長年、価格変動の激しい米とサトウキビに頼ってきた。だが気候変動と市場競争にさらされ、若者の都市流出が止まらず、農業人口は減少の一途をたどっていた。そこに現れたのが、規制緩和によって合法化された大麻である。乾季にも収穫可能な耐性、医療・美容・食品への用途展開、そして付加価値の高さ──これらが、農村再生の起爆剤として注目されている。

「耕作放棄地が、グリーンラボに変わった」

タイ北部ナーン県では、過去10年間で放棄された棚田や畑が、大麻栽培区画として復活している。地方自治体と大学が連携し、農薬不使用・有機栽培に特化した大麻農園が次々と立ち上がっている。栽培支援のための地方研修、オンライン流通網、農協主導の買い取り契約など、農村経済における“第二の米革命”とも呼べる変化が起きつつある。

「搾取の連鎖」からの脱却なるか?

だが課題も多い。中間業者による買い叩き、CBD抽出施設の偏在、GMPなど国際基準を満たす乾燥・加工工程の未整備など、“都市主導モデル”の恩恵が農村に届かないケースが続出している。また、契約書の不透明性や収穫物の廃棄リスクも、零細農家の参入障壁となっている。政府の補助金は都市部の事業者に偏る傾向があり、農村の“自立型サプライチェーン”の構築こそが今後の鍵となる。逆に言えば、地域で栽培→乾燥→加工→販売までを完結できれば、都市依存の構造を打破し、地産地消型の持続可能なモデルが実現できる。

次の主役は“女性と若者”

意外なことに、今この変化の中で注目されているのが、女性農家とUターンした若手たちだ。男性主導だった従来の農業とは異なり、大麻ビジネスは商品設計・SNSマーケティング・加工スキルが求められる。そこで活躍しているのが、農村に戻った大卒女性、Instagramを使いこなす20代の若者たちである。彼らは「栽培→加工→ブランディング→直販」までを一気通貫で担う“地域型D2C(Direct to Consumer)モデル”を次々に実現している。

グリーン産業の未来地図は、村にある

タイ政府は現在、農村部での大麻振興プロジェクトを「農業+健康+観光」の柱として再定義しようとしている。つまり、農村を単なる生産拠点ではなく、癒し・体験・教育の“複合機能地域”に昇華させる戦略だ。大麻農園での宿泊体験、CBDスパ付きのアグリツーリズム、地方大学との連携研究など、農村は今や「未来のイノベーションの苗床」として脚光を浴びている。“大麻は麻薬ではない。未来を耕す農具だ”──そう語る農家の言葉が、タイの農村に新しい希望の種をまいている。農業立国・タイ。その未来は、再び“土”から始まろうとしている。