声の大きい家族、沈黙する家族

――強い祖父と、正しい父のあいだで

人は、生まれて最初に
世界の見方を学ぶ。

善悪、強さ、正しさ、
安心の作り方、
怒りの扱い方。

それらは本で学ぶ前に、
家の空気として体に入る。

すごい祖父という「基準点」

この家には、
かつてすごい祖父がいた。

外では尊敬され、
言葉には重みがあり、
名前だけで空気が変わる。

その存在は、
家族にとって誇りであり、
同時に基準になった。

あの人のようでなければ
価値がない

誰も口には出さない。
だが、空気はそう語る。

父は「正しい人」だった

父は教師だった。

まじめで、
規則を守り、
正しい言葉を知っている。

だが祖父と比べられると、
どうしても静かに見えた。

父は、
強く叱らない。
声を荒げない。
力で押さえない。

それは美徳だったが、
家庭の中では
頼りなさとして映った。

家の中に安心がなかった理由

母と父は、
よく言い合った。

声がぶつかり、
感情が散らばり、
終わりのない空気。

子どもは学ぶ。

正しさでは
家は守れない

静かさは
力にならない

家は、
休む場所ではなく、
緊張の場になる。

子どもが選んだ生き方

この家で育った子は、
二つの像を見ていた。

・強く、恐れられる祖父
・正しく、軽く扱われる父

どちらにも
なりきれない。

だが一つだけ、
はっきり分かったことがある。

弱く見えたら
終わる

だから子は、
強さを選ぶ。

声の大きさ、
態度の荒さ、
上下をはっきりさせること。

それは性格ではない。
生き残り方だ。

なぜ、弱い相手にだけ強く出るのか

この家で学んだ強さは、
安心と結びついていない

だから、

・本当に強い相手
・反撃してくる相手

には出せない。

出せるのは、

・後輩
・女性
・立場の弱い人

だけ。

これは残酷さではない。
恐れの管理だ。

家族の中で、誰も教えてくれなかったこと

この家には、
一つだけ欠けていたものがある。

それは、

強くなくても
いていい

という感覚だ。

祖父は強すぎた。
父は正しすぎた。
母は苦しすぎた。

誰も、
「ただ在る」
姿を見せなかった。

家族は悪ではない

この話に、
悪者はいない。

祖父も、
父も、
母も、
それぞれの時代で
必死に生きていた。

だが、
構造は人を作る

善意だけでは、
連鎖は止まらない。

連鎖を断つ人は、静かだ

この家族の外に、
違う生き方をする人が現れる。

声を荒げず、
上下を作らず、
強さを証明しない人。

その人は、
家族の物語に
参加しない。

それだけで、
連鎖は揺らぐ。

結び

家族は、
人を守る場所にも、
人を縛る場所にもなる。

大事なのは、
誰かを責めることではない。

これは
自分の人生か
家族の続きか

それを
見分けることだ。

連鎖は、
戦って断つものではない。

静かに降りることで、終わる。