昔の田んぼには、なぜトンボがあふれていたのか

― 土・水・菌・虫の完全な循環

昔の日本の夏には、田んぼの上をトンボが無数に飛んでいた。
夕方になると、赤トンボが空をうめ、子どもたちは当たり前のようにそれを見て育った。

いま、その光景はほとんど見られない。
理由を「気候変動」や「開発」の一言で片づけるのは簡単だが、本当の原因はもっと足元にある。

それは、田んぼの中の循環が切れてしまったことだ。

トンボは「田んぼの健康診断」

トンボは、ただの虫ではない。
実はトンボは、田んぼの状態をそのまま映す指標でもある。

・幼虫(ヤゴ)は水の中で育つ
・水中の微生物や小さな虫を食べる
・成虫は空を飛び、また田んぼに戻る

つまりトンボが多いということは、

・水が生きている
・土が生きている
・虫が循環している

という証拠だった。

昔の田んぼにあった「完全な循環」

昔の田んぼには、4つの要素が自然につながっていた。

① 土

化学肥料は少なく、
落ち葉・わら・フン・虫の死がいが土に返っていた。

② 菌

土の中には多様な菌がいて、
有機物を分解し、栄養を作り、病気をおさえていた。

③ 水

水は動き、よどまず、
菌や水生昆虫が生きられる状態だった。

④ 虫

ボウフラ、ミジンコ、ヤゴ、トンボ、クモ、カエル。
それぞれが食べ、食べられ、また土に戻った。

この小さな生態系が、田んぼ一枚ごとに成立していた。

トンボは「殺されて消えた」のではない

重要なのはここだ。

トンボは、急に大量に殺されたわけではない。
多くの場合、

・ヤゴが育たない
・エサになる虫がいない
・水中の菌が少ない

という理由で、生まれても増えなくなった

つまり
循環が止まった結果、静かに消えた

何が循環を切ったのか

最大の変化は、

・水に流れやすい農薬
・長く残る農薬
・虫の神経に効く農薬

が、田んぼに入るようになったことだ。

虫が減る
→ フンや死がいが減る
→ 菌が減る
→ 水が弱る
→ ヤゴが育たない
→ トンボが戻れない

この流れは、一度始まると止まりにくい。

「きれいな田んぼ」と「生きた田んぼ」

今の田んぼは見た目がきれいだ。
雑草はなく、水もにごっていない。

だが、
生き物がいないきれいさは、
回らない静けさでもある。

昔の田んぼは、にごっていて、虫だらけで、手がかかった。
その代わり、自分で立ち直る力を持っていた。

トンボがいないというサイン

トンボがいない田んぼは、
今すぐ困らなくても、長い目で見ると弱い。

・外から入れる物が増える
・人の管理が増える
・少しの異常で崩れる

それは、田んぼだけの話ではない。
水、土、食べ物、そして人の体にもつながっている。

まとめ

昔の田んぼにトンボがあふれていた理由は、
自然が豊かだったからではない。

土・水・菌・虫が、きちんと循環していたからだ。

トンボは、その循環の上を飛んでいただけ。
そして今、私たちはその循環をもう一度思い出す時期に来ている。