ダムより麻(ヘンプ)が水を救う


南米最大級の穀物生産国であるアルゼンチンは、近年深刻な干ばつに繰り返し見舞われている。
大豆、トウモロコシ、小麦という世界市場を支える作物の生産が不安定化し、国全体の経済にも大きな影響を与えている。
だが、この干ばつは単なる「雨不足」ではない。
気候変動やラニーニャ現象だけを原因にしていては、問題の核心を見誤る。
本質的な問題は、水ではなく、土壌にある。
干ばつ対策として最初に挙げられるのは、ダムや大規模灌漑だ。
水を集め、貯め、配分するという発想は、一見合理的に見える。
しかし現実には、ダムを増やしても干ばつは止まらない。
なぜなら、農地そのものが水を保持できなくなっているからだ。
アルゼンチンの主要農業地帯では、長年にわたり
・単一作物の大規模連作
・深耕と過剰な機械化
・化学肥料と除草剤への依存
が続けられてきた。
その結果、土壌中の有機物と微生物、菌糸ネットワークが破壊され、
雨が降っても水は土に浸透せず、表面を流れて消えていく。
これは「水不足」ではなく、土壌の水保持機能の崩壊である。
本来、健全な土壌は巨大なスポンジだ。
微生物と有機物に富んだ土は、雨水を内部に蓄え、ゆっくりと作物に供給する。
ところが、化学資材中心の農業はこの構造を壊す。
・耕しすぎることで菌糸が切断される
・有機物が補給されず、土壌炭素が減少する
・表土が流出し、硬盤層が形成される
こうして土地は「雨を拒む畑」へと変わる。
ダムをいくら作っても、畑が水を抱けなければ意味がない。
ここで注目すべき作物がある。
それが麻(ヘンプ)だ。
麻は単なる繊維作物ではない。
土壌を再生する、極めて特殊な性質を持つ。
・根が深く伸び、硬盤層を破壊する
・根から糖類を分泌し、土壌微生物を活性化させる
・菌糸ネットワークが再構築され、水と養分の通り道が生まれる
・地上部の生育が早く、地表の乾燥と蒸発を防ぐ
結果として、
土壌は再び水を保持し、呼吸し始める。
これは理論ではなく、土壌生態学と再生農業の分野で実証されてきた現象だ。
ダムは水を集中的に管理する。
一方、麻は水循環そのものを分散的に回復させる。
・畑ごとに水が蓄えられる
・地下水の回復が促される
・豪雨は吸収され、干ばつ時には放出される
この仕組みは、巨大インフラよりも気候変動に強い。
なぜなら、壊れないからだ。
アルゼンチンの干ばつは、自然災害ではない。
それは、農業思想の結果である。
・収量最大化から、土壌回復へ
・化学資材依存から、生物循環へ
・ダム中心の水管理から、土壌中心の水循環へ
その転換点に、麻は立っている。
干ばつを救うのは、コンクリートではない。
水を救うのは、根であり、菌であり、土である。
そして、その再生を最短距離で実現する作物の一つが、麻(ヘンプ)だ。
アルゼンチンの未来を決めるのは、
どれだけ大きなダムを作るかではない。
どれだけ土を生き返らせるかである。
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