“大麻差別”のない国を目指して──タイ社会が乗り越えた壁

法律が変わっても、すぐに偏見が消えるわけではなかった。「合法化されても、吸ってるやつは“ダメ人間”と思われる」「家族や職場で、まだ堂々とは話せない」こうした声は、都市部でも地方でも根強く残っている。特に学校や医療機関、宗教施設では、大麻を話題にすること自体が“タブー”視される場面も多い。だが、変化はゆっくり、しかし確実に始まっている。バンコクの一部大学では大麻に関する研究センターが開設され、教育現場でもオープンな議論が可能になりつつある。また、チェンマイやクラビーなどでは、若者が「偏見のない未来」を掲げて大麻文化を祝うイベントを自発的に開催する動きも出てきた。さらに、SNSの力も後押ししている。タイ版TikTokやInstagramでは「#合法大麻」「#CBDライフ」などのハッシュタグが急増し、使い方や効果、副作用などの情報を共有する若者たちのムーブメントが広がっている。
タイは、仏教に基づく「中道思想」や「寛容さ」を文化的価値観としてきた国である。大麻に関しても、最終的には「人を裁くより、理解する」姿勢が広がり始めた。実際、合法化後のタイは、使用者を非難せず、使い方やマナーを重視する社会的コンセンサスを形成しつつある。「酔った状態で公共の場に出るのはNG」「未成年には使用させない」など、規制ではなく文化としてのモラルが整いはじめている。特筆すべきは、地方の寺院やコミュニティセンターで“大麻との正しい付き合い方”を伝えるワークショップが始まっていることだ。僧侶や地元の医師が登壇し、精神性・倫理性の側面からも、大麻との向き合い方を説いている。
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