学校では教えてくれない“医療大麻”──子どもにどう伝えるか

――教育現場が直面する“空白”と、次世代のためのリテラシーとは

「大麻=ダメ、ゼッタイ」の先にある問い

「それって、悪い薬なんだよね?」ある小学生が、てんかん治療にCBDを使っているクラスメイトに向けてこう言った。 彼に悪気はなかった。ただ、学校でそう習っただけだった。文部科学省の教育指導要領において、大麻は**「薬物乱用防止教育の一環」として“有害な薬物”と一括で教えられている。**その中に、「医療利用」や「国際的な合法化の進展」といった情報は、一切含まれていない。“命を守るための大麻”という可能性は、日本の教室では教えられていない。

保健体育の「薬物教育」が直面する“制度的空白”

日本の小・中・高校では、保健体育において「薬物乱用防止教育」が組み込まれている。その内容は、以下のように非常にシンプルだ。
  • 麻薬、覚醒剤、大麻などは「使用すると心身に悪影響」
  • 一度でも使うと「依存・犯罪・社会的崩壊」を引き起こす
  • 「誘われても、きっぱりと断る勇気を持とう」
ここで扱われる“大麻”は、医療や産業、科学の文脈から切り離された**“一枚岩の悪”**として描かれている。結果として、CBDによる治療を受ける子どもやその家族が“誤解と偏見”の対象になるという二次被害が生まれている。
「うちの子はCBDで発作が止まっている。でも、同級生にはそれが“麻薬”と思われている」(CBD治療中の小学生の母親)

世界の教育現場は、“選択肢の教育”へと移行している

米国・カナダ・イスラエルでは:

  • 学校現場でも「医療大麻と嗜好大麻の違い」を明確に教える教材が導入されている
  • 保護者・教員向けワークショップも制度化され、**“多様な大麻リテラシー”**を社会全体で共有

イギリスの一部では:

  • 保健授業で「CBD製剤の医療承認」や「難治性てんかんへの処方事例」を扱い、「科学と法律の違い」を議論形式で学ぶ
これらの国々では、大麻を一括して“善悪”で教えるのではなく、「文脈によって意味が変わるもの」として伝える教育観が浸透している。

教育の目的は「正解」を教えることではない

「子どもに“医療大麻”をどう説明するか?」という問いに対して、教育現場は今まで沈黙を守ってきた。だが、CBD治療を受ける子どもたちはすでに教室にいる。そして、彼らの命を守っているのが**“大麻由来の薬”**であるという事実も、確実にそこにある。教育の役割は「すべての知識を善悪で裁くこと」ではない。未知に対して考える力を育むこと、他者への理解と共感の基盤をつくることである。

「子どもに“知らなくていい”知識はあるか?」

社会が制度を更新するのは時間がかかる。だが、教育は明日からでも変えられる。
  • 保健体育の「薬物教育」に、医療用CBDに関する最新知識を導入する
  • 教員研修に「大麻の多面性」「科学的なリテラシー教育」の視点を加える
  • 医療的ケア児を持つ家庭と学校が連携し、“誤解”を減らす共育の場を設ける

これらは決して「解禁運動」ではない。それは、「命を守る選択肢があるという事実を、子どもたちが知っていていい社会」を目指す一歩だ。