子どもへの医療大麻、倫理的にOKなのか?

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――日本と欧米で分かれる“命を守る選択肢”の是非

禁忌か、選択肢か? 揺れる“医療と倫理”の境界線

「子どもに“大麻”を使うなんて、ありえない」こうした反応は、日本では今なお一般的だ。たとえ医療目的であっても、“大麻”という言葉に含まれるイメージは、即座に拒否反応を引き起こす。だが、世界の医療現場ではその常識が変わりつつある。難治性てんかん、自閉症スペクトラム障害(ASD)、重度の不安障害──現代医学が治療に苦慮するこれらの症例に対し、CBD(カンナビジオール)をはじめとする大麻由来成分の治療的活用が進められている。ここにあるのは単なる“合法・非合法”の問題ではない。それは「この治療は、子どもにとって倫理的に許容されるのか?」という、深い人間的問いである。

欧米諸国:治療効果に基づいた“現実的倫理”へ

米国(州による):

  • FDAは2018年にCBD製剤「Epidiolex」を承認。
  • 小児のドラベ症候群やレノックス・ガストー症候群に対し臨床使用。
  • 医療現場では「効果」「副作用」「生活の質」のバランスを基準に。

英国:

  • NHS(国民保健サービス)においてCBDの処方が医師裁量で許容。
  • 患者と家族の希望を尊重する“Shared Decision Making”原則のもと運用。

イスラエル:

  • 小児患者にも医療大麻が処方される体制が整備済み。
  • 国立病院内に大麻専門外来があり、症例と科学的データが蓄積されている。

これらの国々に共通するのは、“薬物である”という理由だけで排除せず、個別の症例・科学的根拠・家族の意思をもとに「最善の選択」を探る態度である。それが、彼らの倫理であり、社会的合意形成の成果だ。

日本:イメージが倫理を凌駕する社会構造

一方、日本ではどうか。2025年現在、医療大麻は原則禁止であり、CBD製品でさえ微量のTHC混入を理由に刑事罰の対象となる。たとえ使用目的が子どもの命を救うためであっても、「違法」の三文字が、その判断を封殺する。この背景には、
  • 「大麻=犯罪・依存・退廃」の戦後教育による刷り込み。
  • 官僚制における“前例主義”と“安全神話”の優先。
  • 医療倫理をめぐる国民的議論の不在。
が挙げられる。つまり、日本では倫理の前に、制度的恐怖と文化的スティグマが立ちはだかるのである。

専門家の声:医師・研究者の見解

医療大麻の導入に関して、国内外の専門家からは以下のような意見が寄せられている。

正高佑志 医師(Green Zone Japan代表理事)

「医療大麻の導入には、科学的根拠に基づいた冷静な議論が必要です。特に、難治性てんかんなどの治療において、CBD製剤が有効であるというデータが蓄積されています。日本でも、患者のQOL向上のために、制度的な柔軟性を持つべきです」

松本俊彦 医師(国立精神・神経医療研究センター)

「薬物依存症の専門家として、CBDの使用が依存症のリスクを高めるというエビデンスは現時点で乏しい。むしろ、適切な管理のもとで医療利用を進めることが、患者支援につながると考えます」

倫理とは、「使うべきでない」ではなく「どう使うべきか」を問うもの

医学倫理とは本来、「禁止か容認か」ではなく、「この治療は、子どもにとって最善かどうか?」を問うためのものである。

  • 有効性の検証(Efficacy)。
  • 副作用の把握(Risk/Benefit)。
  • 家族の意思と説明責任(Informed Consent)。
  • 社会的公正と制度の整合性(Justice)。
これらを踏まえたうえで初めて、「医学的・倫理的に適切か否か」が判断される。ところが日本では、大麻という言葉そのものが議論の入口を閉ざしてしまう。それは、倫理不在の“法の暴走”とすら言える。

「命の優先順位」を制度が問える国へ

本来、医療制度とは“命を守るため”に存在するものだ。だが現在の日本では、制度が命を選別し、倫理を押し殺している。必要なのは、「すべての治療選択肢をテーブルに乗せられる社会的空気」と、「正確な情報に基づいた倫理的対話」だ。その土台がなければ、どれほど科学が進歩しても、制度が患者の未来を閉ざすだけになる。

子どもを守るために、親が犯罪者になるような社会に、未来はあるだろうか?