“癒しの革命”を掲げる候補──RFK Jr.の大麻・サイケデリック政策とPTSD治療へのビジョン

2024年アメリカ大統領選において、既存の党派的構造を超える存在として浮上したロバート・F・ケネディ・ジュニア(RFK Jr.)。その政策の中でも異彩を放つのが、「大麻とサイケデリックを通じた公共の癒し」というアプローチである。彼はこれらの物質を単なる合法化の対象としてではなく、依存症やPTSD(心的外傷後ストレス障害)といった深刻な精神的課題に対する社会的処方箋として捉えている。

大麻合法化の先にある「癒し」の社会構想

RFK Jr.は、大麻の合法化を強く支持する数少ない大統領候補の一人だ。ただし彼のスタンスは、自由主義的な「使用の権利」だけを掲げるものではない。むしろ、大麻合法化によって得られる税収を活用し、全米に“癒しのセンター(detox centers)”を設立するという構想に重きを置いている。 「アメリカには依存症という静かなパンデミックがある。刑務所に人々を閉じ込めるのではなく、治癒を提供すべきだ」と語るRFK Jr.は、合法化によって不当な刑罰から市民を解放するだけでなく、その社会的副産物をポジティブに活用しようとしている。 彼の構想では、大麻への連邦課税を通じて得た財源を、薬物依存や精神疾患に苦しむ人々のための治療インフラ整備に投入する。これは、単なる規制緩和ではなく、公共のウェルビーイング(well-being)を再定義する試みだ。

個人の経験が政策に宿る──依存からの再生とリアリズム

こうした主張の根底には、RFK Jr.自身の経験がある。彼は若い頃にヘロイン依存に苦しみ、更生した経歴を持つ。以来40年近く断酒と断薬を続けており、その回復の道のりが、彼の薬物政策の骨格を形づくっている。 この個人的背景が、彼をして“極端な楽観”にも“過度な恐怖”にも陥らないバランス感覚を与えている。彼は高濃度THCを含む現代の大麻がもたらす精神的副作用に懸念を示しつつも、**「大麻が人々の生活を破壊するほど有害だとは考えない」**と発言。科学的証拠に基づく政策決定を重視する姿勢を繰り返し強調している。 彼のビジョンは、“大麻を自由に吸える社会”ではなく、“薬物政策によって人が回復し、再びつながる社会”の実現である。

サイケデリックを巡る新たな地平

RFK Jr.の政策が注目されるのは、大麻だけではない。MDMAやシロシビンといったサイケデリック薬物の医療利用にも積極的な支持を示している。 彼はSNSでも繰り返し、「サイケデリックには人々の深い傷を癒す力がある」と述べ、PTSDやうつ病などに対する代替的治療手段としての可能性に強い関心を示している。特に戦争帰還兵やトラウマに苦しむ退役軍人への応用を重視しており、「国として、彼らに最も効果的な治療法を提供する責任がある」と語る。 こうした発言の背景には、自身の家族や親しい人物がサイケデリックを通じてトラウマを克服した経験があるとされ、それが彼の政策理念に現実味を与えている。

既得権益への挑戦としての“サイケデリック政策”

RFK Jr.のサイケデリック支持は、単なる医療技術の更新にとどまらない。彼は、FDA(米食品医薬品局)や医療産業が、既存の利益構造を守るために有望な治療法を抑圧していると非難している。 「FDAの中には、サイケデリックやペプチド療法、生乳、幹細胞治療といった“自然と身体の力”に基づく医療に対して不当な偏見がある」と語るRFK Jr.は、医療政策における“透明性”と“科学への忠誠”を同時に要求している。 この姿勢は、リベラル派からは「陰謀論的」と批判される一方で、現状の医療制度に不信を抱く多くの層──特に自然療法志向の市民や退役軍人層──から強い支持を集めている。

癒しの政治へ──“犯罪”から“ケア”へ

RFK Jr.の薬物政策の核心は、「罰する社会」から「ケアする社会」への転換にある。 かつてのアメリカでは、大麻使用が人生を破壊するほどの刑事罰に直結していた。今、25以上の州で嗜好用大麻が合法化され、医療利用は全米で広がりつつある。しかし連邦法上では依然として大麻はスケジュールⅠ(最も危険な薬物)に分類されており、法的なねじれが続いている。 RFK Jr.は、こうした矛盾を解消し、大麻とサイケデリックを「犯罪の対象」ではなく、「社会的治療の手段」として制度設計することを目指している。その先にあるのは、薬物をめぐる差別や格差の解消、医療資源の再分配、そして人々の意識の変革である。

終わりに──ケネディ家の“祈り”を受け継いで

RFK Jr.は、ジョン・F・ケネディやロバート・ケネディといった伝説的な政治家を家族に持つ「血統の政治家」であると同時に、「魂の回復を政治の中心に据える」という点で新時代の候補者でもある。 彼の政策は、「自由か管理か」といった二項対立を超えた、“癒しと再統合”という第三の道を模索するものである。大麻もサイケデリックも、その手段にすぎない。目的は、人々が再び自分自身とつながり、社会とつながることができる社会の構築だ。 そのビジョンは、現代アメリカにおける「医療・司法・精神の再構築」に向けた問いかけとなっている。