私たちは、いつから「麻」を“悪いもの”と見なすようになったのだろうか。今や「大麻」と聞けば違法薬物というイメージが先行する。しかし、この植物は本来、日本人の精神文化と生活に深く根ざした“神聖な存在”だった。
縄文時代の遺跡からは、すでに麻の繊維や種子が発見されている。衣服、漁網、縄、敷物、さらには食用や灯りの油まで──まさに麻は**「衣・食・住・神」**すべてに関わる万能植物だった。
中でも特筆すべきは、神道における麻の神聖性である。
注連縄(しめなわ)や鈴緒、祓串(はらえぐし)など、神事の道具には麻が欠かせなかった。麻は「穢れを祓う植物」とされ、その繊維を身にまとうことで、心身を清め、神とつながる準備が整うと考えられていた。